能楽師|久田勘鷗|HIDASA KANOH

道成寺(どうじょうじ)解説

前シテ:白拍子     後シテ:蛇体     ワキ:道成寺住僧     ワキツレ:従僧(2人)     アイ:能力(2人)
作者:観世小次郎信光     出典:今昔物語集・巻十四の三

道成寺伝説は、「大日本国法華験記」が原型、次に「今昔物語集」に記され、その後安珍清姫伝説となります。

あらすじ

(今昔物語集では)
今は昔、熊野詣にむかう老人と若者の二人の僧が、牟婁(むろ)郡で民家を宿に借ります。家の若い女主人は、若い僧に一目惚れ、夜になると寝所を訪れ迫ります。僧は困り、自分には宿願があり熊野に参る途中なので、二三日うちの帰りに寄り、あなたの言葉に従うと約束します。女は指折り数え待っていますが、僧は怖くなり、別の道を通り、立寄らないで帰ってします。このことを知った女は、寝室に閉じ籠ったまま死んでしまいます。暫くすると、五尋(≒9m)の毒蛇が出てきて、僧の跡を追っていきます。二人の僧はこのことを聞き、道成寺に逃げ込み、若い僧を鐘に隠し入れますが、毒蛇が追いかけてきて、4~6時間も鐘に巻きついて後、帰っていきます。水をかけて鐘を冷やし、取りのけて見ると、僧はすっかり焼け失せ、わずかの灰になっていました。その後、この寺の老僧の夢に、取り殺された僧が大蛇の姿で現れ、毒蛇の夫にされてしまって苦しいので、法華経の如来寿量品を書写して、二匹の蛇のための供養を願います。老僧は、私財を投じ、多くの僧を請じ、法会を営んで法華経供養をしました。その後の夢に、二人が現れ、女は忉利天(とうりてん)に生まれ、男は兜率天(とそつてん)に上がったと報告します。
(前場)
紀州道成寺では、仔細あって永らく撞鐘がありませんでした。この程再興し、今日が吉日で供養をすることになります。住僧は能力に、今日は仔細があって女人禁制にするので、触れるように命じます。そこに一人の白拍子がやって来て鐘を拝ませてほしいと言います。断る能力に、舞を舞って見せるから鐘を拝ませてほしいと頼みこみ、烏帽子を借り受け、白拍子は乱拍子を舞いながら寺の石段を上がって行きます。そして、人々が寝入った隙に鐘を落とし、自分はその中に消えます。
物凄い音に驚いた能力は、鐘楼の鐘が落ちているのを知り、住職に報告します。
(後場)
住職は女人禁制にした、その謂れを話します。昔、真砂の荘司の娘が、幼心に一人の山伏を恋したが、長じて後、男は娘を捨てて、この寺の撞鐘に隠れた。跡を追った娘は蛇体になって日高川を渡り、鐘に巻きついて、口からは焔をはき、尾で鐘を叩いて、中の山伏を取り殺したという話です。先程の白拍子はその娘の怨霊だろうと、祈りを始めます。すると、鐘が上がって、中から蛇体の鬼女が姿を現します。住僧たちの必死の祈祷に、蛇は吐く息も猛火となって自身を焼き、日高川の深淵に消えていきます。
(おわりに)
道成寺は、舞のシテ方にとっても、囃子の小鼓方にとっても特別な曲です。小鼓の掛け声に息詰まる乱拍子、一転しての急之舞、烏帽子を飛ばし、鐘に飛び込み、鐘を落とす迫力、鐘から現れる蛇身。シテ方も小鼓方も、本曲を経て一人前と認められます。

馬淵和夫・国東文麿・稲垣泰一著「日本の古典をよむ12今昔物語集」小学館刊を参考にしています
(文:久田要)